iNG Review

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恐怖と美しさ- 映画 -「ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日」

 

 

評価:★★★★★

この映画はベンガルトラのリチャードパーカーと漂流して1人生き残る少年パイの心の変化を描くとても美しい映画である。

※以下ネタバレも少々含むので注意

前半は動物園を経営する家に生まれたパイの人格形成の描写に結構な時間を割いている。
インドの絵本を読み聞かせるシーン(口の中に宇宙が見えた)とか、こんなに意味不明な展開の物語を幼い少年にしてるのかと衝撃を覚えるし、父親との会話にはいちいち示唆に飛んでいて文学的だ。
例えば、何にでも疑問を持ちヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教を信じるパイはベンガルトラの目を見て心が通じ合えると餌をやりに檻の近くまで入っていく。
それを父親に発見され目の前で生きた動物が虎に食われるシーンを見せられ父親から「お前は虎の心が見えたのではない。虎の目の中に自分の心を見たのだ。」と言われ目を覚ます。
それでもパイは生きがいを探しつづける。
インドからカナダへ移住する際に乗っていた日本の貨物船は沈没して家族全員を失ってしまう。
そこから奇妙なことに脱出用の小船にシマウマとハイエナとオランウータンを乗せて動物一行と漂流するパイ。
「そんなことあるかよ。」と軽く観客に突っ込みを入れさせた所で、小舟に隠れていたベンガルトラのリチャードパーカーが飛び出してきて、小舟にはリチャードパーカーとパイだけになってしまう。一気に緊張感が走る。
この後、パイは自然の残酷さに恐怖しながらも生き残る為にあの手この手で生き抜いていく。

続きは是非映画館で。

難しいことを抜きにしてもVFXを駆使した動物や自然の映像美だけでも十分に観る価値はあると思う。
そこに宗教、文学テイストを散りばめながらパイの一喜一憂にハラハラしながら、その世界観にグイグイ引っ張り込んでいかれた。
別れのシーンで虎がパイのことを振り返らずにジャングルに戻っていく所がハイライトであろう。
少年は人々に発見されるが泣きじゃくる。それは生き延びた喜びの涙ではなかった...。
「あそこは何を伝えたかったのだろう」と観終った後も考えさせられる。
この映画は、ただ1人の少年が『生きる』だけの映画である。
ただその『生きる』ことが、どれだけの恐怖で美しくて無慈悲かを伝えようとしている。
映画はパイの回想を聞いたカナダ人小説家がこの話を小説にしようという所で終るのだが、この小説のタイトルを「Life Of Pi 〜Your Story〜」というサブタイトルで是非読んでみたい。